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下垂体腺腫における中枢性甲状腺機能低下症:先端巨大症では中枢性甲状腺機能低下症の合併が少ない

群馬大学 山田 正信

Central Hypothyroidism Related to Pituitary Adenomas: Low Incidence of Central Hypothyroidism in Patients with Acromegaly.
Takamizawa T*, Horiguchi K*, Nakajima Y*, (*These three authors equally contributed), Okamura T, Ishida E, Matsumoto S, Yoshino S, Yamada E, Saitoh T, Ozawa A, Tosaka M, Yamada S, Yamada M.
J Clin Endocrinol Metab. 2019; 104(10):4879-4888.

中枢性甲状腺機能低下症(CeH)は、視床下部下垂体の障害により甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌及び生理活性が障害され、甲状腺ホルモン分泌が低下することにより発症する。CeHでは、血清TSH値が低下すると考えられているが、実際には低値から高値まで様々な状態を示すため、CeHの診断は時として困難である。原因の約60%は下垂体腺腫により発症するが、CeHにおける詳細な甲状腺機能については、これまで、少数例における検討が報告されているのみで、下垂体腺腫から分泌されるホルモンとの関係も含め不明な点が多い。一方、ホルモン産生下垂体腺腫の一つであるGH産生下垂体腺腫(GHPA)患者は、健常人と比較して、甲状腺の大きさと甲状腺腫瘍が疾患活動性と罹病期間に関連することが報告されているが、産生されるGH/IGF-1の甲状腺機能への影響は不明である。そこで、本研究では非機能性下垂体腺腫(NFPA)患者における詳細な甲状腺状態を評価し、GHPAにおける血清GH/IGF-1レベルと甲状腺機能の関連について明らかにすることを目的とした。対象は、2007〜2016年に群馬大学病院および虎ノ門病院を受診したNFPA139例とGHPA149例を対象に後ろ向き横断的観察研究を行なった。甲状腺ホルモン療法中、原発性甲状腺機能障害合併例は除外した。これらの症例における甲状腺ホルモン値、GH/IGF-1値、腫瘍経等の臨床データを比較した。結果、NFPA群では、139例中34例(24.5%)にCeHが合併していた。一方、GHPA群ではCeHの割合が8.7%とNFPA群と比較して有意に低く、年齢、性別、腫瘍径で補正した多変量解析の結果、Odds比 0.29 (95%CI:-0.91 - -0.28. p<0.11)であり、GHPAはNFPAよりもCeHに抵抗性を示した(図1)。さらに、NFPA群と異なりGHPA群ではCeH合併例の46.2%にTSHの低下がみられ、さらにCeHを合併しない症例においても、TSH低値が23.5%に認められた。実際、GHPA群ではNFPA群と比較して血清TSH値は有意に低下を示し、血清FT4値、血清FT3値は有意に高値を示した。この腫瘍間の差異を検討するため、GHPA群を腫瘍径10mm毎に層別化し、腫瘍径と甲状腺ホルモンを比較したところ、TSH及びFT4値は腫瘍径が1㎝以上のmacroadenomaでは低くなる傾向が認められたが、有意な差は認められなかった。両群において、血清TSH値は、血清GH値及びIGF-1値と負の相関関係を認めた。血清FT4値は血清IGF-1値と弱い正の相関関係がみられたが、血清GH値との有意な相関を認めなかった。さらに、血清FT3値は血清GH値及びIGF-1値と正の相関関係を認めた。以上から、NFPAにおけるCeHでは、血清TSH値は正常範囲を示し、GHPAにおいては、NFPAよりも甲状腺機能低下症の合併は少なく、GH/IGF-1による長期的な甲状腺刺激が原因である可能性が示唆された。

 

図1